ロコはブリーダーさんのところで7歳まで暮らしていました。獣医さんの証明書もあって健康状態に問題はなく、ヒトを怖がる様子もなかったので、虐待されたこともなかったでしょう。
ただ、一番驚いたのは、多くの繁殖犬がそうであるように、名前がなかったのです。だから、最初はロコと呼んでもじぶんのことだとはわかりませんでした。
それからケージの中でほとんどの時間を過ごしていたので、後ろ足の力が弱いようで、お尻が下がっていました。家の中で、わずかな距離なら走ることはできたのですが、お散歩するのは無理なように思えました。おそらくお散歩したことがなかったので、外が怖い。目にするもの全て、聞こえてくる音も怖かったのでしょう。初めて会った時、ブリーダーさんはリードをつけて車にのせて来ましたが、公園に降ろしたら一歩も動きませんでした。
10日目にロコはカートに乗って、2時間ほど外へ行きました。カートの中から、外を眺めて不思議そうにしていましたが、降りようとはしませんでした。
ずっとこのままカートに乗ったままかもしれない、それでもいい、と私と息子は思いました。
カートに乗っていても、梅の香りは感じる。少しづつあったかくなり、春が近づいて来る。
「ようこそ」ロコちゃん
小さなカゴに入れられ2時間電車とタクシーを乗り継ぎ、やっとカゴから出て来たロコ。「ようこそ」と迎えられたものの、へっぴり腰でおどおどしていました。
ご飯はしっかり食べましたが、一言も発せず、「声が出ないんんじゃないか?」と心配しました。
1週間後は暖かく、しだれ梅が咲き始めていました。
慎重に匂いを嗅ぎながら、5メートルほど歩きました。静かな公園だからかもしれない。